アイリストの仕事は、どこから機械に置き換わるのか。
アメリカで動いているまつげエクステのロボットの値段を調べたら、思っていたのと逆でした。
まつげの施術をする機械の話は、何年も前から出ています。
ただ「いつか来る」で止まっていて、どこから影響が出るのかまで話しているのを、あまり見かけません。
今回はそこだけを見ます。
結論から言うと、最初に揺れるのは、いちばん安い価格帯ではないと考えています。
そして、それが起きるまでには、まだしばらくかかると見ています。
アメリカに LUUM(ルーム)という会社があります。
ロボットとカメラとAIで、まつげエクステを装着します。
分かっている数字だけ並べます。
| 2024年 | TIME誌の「その年の発明」に選ばれています |
| いまの価格(公式サイト) | シングル1セット199ドル/リペア99ドル/ボリューム追加は+40ドル |
| 報道された当時の価格 | 2024年から2025年の記事では、1セット170ドル・リペア80ドル |
| 施術時間 | 2025年11月の新型で、両目を同時に施術して1セット33分(従来の手作業は約75分、という同社の説明) |
| 機械の値段 | 導入する店に対して、リース料12万5千ドル。 加えて施術売上の30% |
| 置き場所 | ノードストロームやアルタといった大型店の中に、店舗を構える形 |
| 今後 | アメリカ国内に1,000ヶ所以上の出店候補があると発表 |
日本で受けられるという情報は、確認できていません。
ここは調べた範囲での話です。
いちばん知りたいのはここだと思います。
同じ店に機械のコースと人のコースが並んでいれば、機械の値段が一発で分かるからです。
調べましたが、ありませんでした。
この店は機械の施術しかやっていません。
だから「同じ店の中での比較」はできません。
比べられるのは、外の相場とだけです。
機械が来ると聞いて最初に思うのは、たぶんこうです。
安いところが機械に置き換わって、もっと安くなる。
だから価格で戦っている店から順に苦しくなる。
私も、そう思っていました。
SNSで機械の動画が流れてきたとき、「これは安いサロンから順に置き換わっていくんだろうな」と、深く考えずに受け取っていました。
値段を調べたのは、そのあとです。
いまの公式サイトの値段は、シングル1セット199ドルです。
1ドル150円で換算すると、3万円くらいになります。
日本の感覚だと、かなり高く見えると思います。
でも、これはアメリカの値段です。
日本の相場と直接比べても、意味がありません。
アメリカのまつげエクステの相場を調べると、こうなっていました。
| 種類 | 1セットの相場 |
|---|---|
| シングル | 120〜200ドル |
| ミックス | 150〜300ドル |
| ボリューム | 200〜400ドル |
199ドルは、シングルの相場のいちばん上です。
つまり機械は、安売りをしていません。
それどころか、人が手でやっている店の高いほうに、値段を合わせています。
機械の値段が公表されていました。
導入する店は、リース料12万5千ドル。
さらに、施術の売上の30%を機械の会社に払います。
1セット199ドルなら、そのうち約60ドルが機械の会社に行きます。
店に残るのは139ドルです。
そこからリース料を回収していきます。
仮に12万5千ドルが年額だとすると、リース料のぶんだけで年間900セット近く。
週に17セットです。
※リース料が年額かどうかは公表されていないので、これはあくまで仮定の計算です。
この構造だと、値下げという選択肢が最初からありません。
安くすればするほど、回収できなくなるからです。
ここは意外と知られていないところだと思います。
機械が入っている店にも、アイリストは横にいます。
体験した人の記事によると、人がやっているのはこうです。
つまり、無人ではありません。
1台につき、人がひとり張り付いている形です。
これは「機械が人を置き換える」という話とはずいぶん違います。
人の仕事が、施術から、準備と監視と仕上げに移った、というほうが近いと思います。
そして、ここが次の話につながります。
人がひとり張り付くなら、人件費は減りません。
ここが、今回いちばん考えたところです。
お客様の値段の話ではなく、入れる店の側の話です。
導入する店が払うものを並べます。
| 払うもの | 性質 |
|---|---|
| リース料 12万5千ドル | 固定。予約が埋まっていても、埋まっていなくてもかかります |
| 売上の30% | 変動。1セット199ドルのうち約60ドルが出ていきます |
| アイリストの人件費 | 減りません。準備・監視・仕上げで、人はそばにいます |
手でやっていれば、199ドルはまるごと店に入ります。
機械を入れると、1セットごとに60ドルが減り、固定のリース料が乗り、人件費はそのまま残ります。
もちろん、その代わりに時間が短くなります。
75分が33分になり、同じ時間で2倍以上のお客様を見られます。
つまり、席が埋まり続ける店なら合いますが、そうでない店は合いません。
機械は、空いている時間を埋めてはくれないからです。
予約が常に埋まっている店にしか、いま入れる理由がありません。
大型店の中に入っているのは、そういうことだと思います。
もともと人が歩いている場所でないと、この計算が成り立ちません。
75分が33分になる。
1人のアイリストが見られる客数が最大4倍になる。
これは値段を下げる道具の説明ではありません。
同じ時間で何人見られるか、を上げる道具の説明です。
高い設備を入れて、相場の上のほうの値段で、たくさん見る。
それが今の機械のビジネスの形です。
裏を返すと、こうなります。
お客様を3つに分けてみます。
| 来ている理由 | 機械が来たら | |
|---|---|---|
| 下 | 安いから | 動きにくい。 機械は安売りをしない |
| 上 | この人だから | 動きにくい。 指名は機械に置き換わらない |
| 真ん中 | 近いから・空いていたから | ここが動きます |
真ん中というのは、価格の真ん中というより、選ばれ方の真ん中です。
そこそこの値段で、そこそこ早くて、人ではなく店で選ばれている席。
機械が出せるのは「同じくらいの値段で、半分以下の時間」です。
これが効くのは、安さで選んでいる人でも、人で選んでいる人でもありません。
どちらでもない真ん中の人です。
ここまでの話は「機械が広まったら」の話です。
では、いつ広まるのか。
私は、しばらくかかると見ています。
理由は、いまの構造が輪になっているからです。
新しい機械が安くなるのは、たくさん作られてからです。
たくさん作られるには、たくさん売れないといけません。
でも、いまの値段だと入れられる店が限られます。
この輪がほどけるまでは、値段は下がらないと思います。
ほどける道が無いわけではありません。
大型店のチェーンがまとめて入れる、という道です。
実際、会社は「アメリカ国内に1,000ヶ所以上の出店候補がある」と発表しています。
1店ずつ売るのではなく、チェーンごと入れて台数を作ろうとしているように見えます。
だとすると、順番はこうなります。
日本の街のサロンに来るのは、この4番目です。
かなり先だと思っています。
何年後かは分かりません。分からないことは、分からないままにしておきます。
言えるのは、下から順に来るわけではないということと、その順番が回ってくるまでには時間があるということです。
時間があるうちに、やっておけることがあります。
予約表を1ヶ月ぶん見て、お客様を3つに分けてみてください。
数えるのに10分もかかりません。
そして、この数字は機械が来なくても使えます。
3つ目の割合が高い店は、機械が来る前から、近くに新しい店ができるたびに揺れているはずだからです。
機械が来たからといって、明日いきなり何かが変わるわけではありません。
それどころか、しばらくは何も起きないと思っています。
そして、機械が入っている店にも、アイリストは横にいます。
準備をして、様子を見て、目頭の5〜6本は手で足しています。
なくなったのは施術の時間であって、人ではありません。
「この人だから」で来ている席を増やしていけば、順番が回ってきたときに揺れる幅は小さくしていけます。
それは機械の話とは関係なく、今日から数えられます。
※ドル円は1ドル150円で換算しています。
※施術時間の比較は、いずれも同社の発表によるものです。
※7章と10章は、公表されている数字をもとにした筆者の見立てです。
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